読者の声


「鷺の墓」の感想です。


1 個人が組織の持つネットワークの中でいかに生きていくのか……漱石の「社会と自分」をはじめ、
近代文学の一テーマなのでしょうが……組織の不条理に耐えて耐えて「義」に立つ……
あるキャラクターをお作りになったと思っています。
作者の人生体験と哲学をベースとした「文は心(人)なり」という格言を感じました。
2 「よき書き手は、よく見る人である」と思っています。各作品における季節の移
ろう描写には、この度も感嘆しました。食材の多彩さにも……。
3 そして、「博覧強記」に感服しました。例えば、「上米」「貫洞」「野駆け」な
ど、よく勉強していますね。
               尾道市 H


わたくしは時代小説が好きなので、本当に楽しく、一気に読んでしまいました。
短編集とも長編ともとれますが、わたくしには、たとえてみれば一つの交響曲(それぞれ
の楽章が独立していて、しかも全体として纏まっている)作品のように思えます。
劇的ではあるが、R、シュトラウスやマーラーのようにおおげさでない、メンデルス
ゾーンかシューマンの交響曲を聴いたあとのような、しっとりと心に沁みる音楽を
聴いたあとのような心持ちがいたしました。
ことに、第一楽章「鷺の墓」と第五楽章「逃げ水」に同じ人物を登場させて
締めくくってあるところには、うなってしまいました。
           呉市  K


一つひとつの話がしみじみとして味わい深く、それがまた連作になっていることで、
登場人物やその世界に親しみが持てて、とても良かったです。
藤沢周平のものなども好きですが、今井さんの文章はよりしっとりとした繊細な
雰囲気で、とても良いですね。
いつも行く美容院の若い男の子に毎回「面白い本ないですか」と訊かれるので、
教えてあげようと思います。
姪が「鷺の墓」を読んで泣いたと言っていました。
        東京都  U


本の中に寺町、城見町の名が出てくると、福山のことのように錯覚を起こしました。
「蘇鉄のひと」と比べると読みやすかったです。二日で読んでしまいました。
読みかけたらやめられない……です。
若い人の読む本より、山本周五郎とか今井さんのような時代小説がどちらかというと
いいです。
      福山市  F


あのようにこみいった時代小説が書けるなんて、参考資料など、読まれたのでしょう
し、勉強もなさったのでしょうね。
今井絵美子さんの他の本も「小日向源伍の終わらない夏」「母の背中」も読もうと
思っています。
「鷺の墓」は短篇の如くで、一編ずつが丁寧です。
そして読むうちに全体がひとつの悲しくて、そしてほっとする物語になっていて安心して
読み終われると思いました。
テレビでは「剣客商売」「御宿かわせみ」など好きです。
本は北原亜以子の「蜩」宮部みゆきのもの、古くは藤沢周平などが好きです。

       東京都  F


鷺の墓、読み終わりました。

個人的には、新聞記事などではあまり取り上げられてませんでしたが、「無花果、朝露にぬれて」が
一番好きでした。
 
これはすばらしい。最後の二ページで泣きました。
鷺の墓・空豆と読み進んで、心の中に、鬱積していたものが、吐き出された感じです。
ここで、初めて登場人物だけでではなく、物語に流れている感情的なもので
つながっていることがわかりました。
単発の話としても、ぐっと派手さを押し殺した内容で、さすが。
プロを感じました。
登場人物も自然で、泣きに持っていくストーリーにも嫌味がありません。
これが、絵美子流か・・?
もう一度しっかり泣くために読み返したくなる一篇でした。
黒澤明に映画化してもらいたい感じです。

       千葉県  O

以上が現在(2006年6月)メール、FAX、手紙で頂いた感想です。
電話を下さる方が多いのですが、言葉はすぐに消えてしまうので……残念!!

また感想などが寄せられたらお送りします。

                          絵美子


三年前位から時代小説にはまり、藤沢周平・山本周五郎・平岩弓枝・宇江佐真理など
いろいろな作家の本を150冊前後読んでいます。
その中で情景描写に於いては藤沢周平さんが一番だと思っています。

今回(鷺の墓)を読み個人的には一番好きな無花果・朝露に濡れての117頁
   油照りのする暑い盛り、蝉が激しく鳴いていた。
  障子という障子を開放しても風がひと揺れも吹こうとしない。

そのいかにも暑いという情景がパッ目の前に浮かびスーと入っていけました。
各所の風景描写が大変きれいで読み終わった後にしっとりと落ち着ける気がしました。
藤沢周平さんに優るとも劣らないと思います。
是非続編を読みたいと思います。

         K



福山の時代小説家、今井絵美子さんが武家物の連作小説集を出した。
架空の藩を舞台にしているが、どうも福山藩くさい。
そう思って読んでいくと、例えば西坂、染川、分限、俵といった町の場所が、大体推察でき、楽しい。
もっとも、田之庄町などというリアルな町名もあるが。

さて肝心の物語だが、大雑把にいうと、藩中枢部の勢力争いに巻き込まれる下級武士の悲哀を描いている。
一見、暗そうな感じだが、さにあらずで、適度にユーモアがちりばめられ、
愛も友情もあってなかなかに面白く、一気に読まされてしまった。
地元の読者にとっては、一粒で二度おいしい作品といえる。

        経済レポート7・10  1164号


鷺の墓出版おめでとうございます。
拝読させていただき、さすがは「もぐら」の作者、読者を惹きつけて離さないものをお持ちだと感嘆しました。
「もぐら」はなぜかわたくしにとりまして何年たっても印象深いお作です。
現在大阪女性文芸賞の選出に忙殺されていますが、理事の皆さんに回覧させていただいております。

     大阪女性文芸協会


「鷺の墓」を先ず読ませて頂きました。大変読みやすく生活の中に溶け込むことができました。
これをペースに「空豆」を読みましたが、主人公の空豆君の容姿とその人の実力(人物)がマッチしないところがあり、
やや違和感を感じました。

後の作品も一気に読ませて頂きました。物語に引き込まれるようで、途中で止めることができない構成で、
女性らしい感性と文言が心地よく私の心を揺さぶりました。
時代物の多くは舞台が江戸になっているので、登場する地名が認知されていて、読者は地理的感覚があり、
距離感や位置感覚が鮮明で、下町・武家屋敷・在所・川・橋など名前だけで自分で舞台構成が出来るので、
話が面白いが、あなたの作品は地理的位置が不明瞭なので、読者が地理的空間を作りがたく、
私は福山の地を知っているので、適当にあれこれ空想をして読みましたが、あえて架空でなく、
古い時代の地名を使用した方が読者に親近感を与えるのではないでしょうか。

        神辺町 I


鷺の墓を読んで

こんにちは、角川文庫から発刊された貴女の新作「鷺の墓」を読ませていただきました。
あまり時代物は読まないのですが、私の知人であり先輩である南義弘さんのご紹介があり手にとって見ました。
鷺の墓から始まる短編集でしたが、一編一編が舞台を同じくした続編ともいえる構成で、興味深く拝読しました。
それぞれが主人公を通しての人間の生き方をモチーフとされており、読後は何ともいえない感傷を覚えました。
昔、山本周五郎氏の短編を読んだ記憶がありますが、文章のタッチはそれに似たさわやかな印象を持ちました。
まだ、文壇に登場されてからは日も浅く、今後の期待大き方、益々のご活躍をお祈りいたします。


今井絵美子さんの「鷺の墓」読みました。
すごい作品です。一行一句隙のない文には驚き、感銘を受けました。
巷には色々な書物が氾濫していますが、このような一行一句に力を感じさせる作品は
あまりありません。
稀にみる崇高な作品です。ただ、ただ、感銘いたしました。
           
        千葉市 K  (2006年9月)