2012年


2月


WESサイト「広島の本」にわたくしの記事が掲載されました


『願の糸』 立場茶屋おりき

2012/02/03

『願の糸』 立場茶屋おりき(ハルキ文庫 660円+税)

●立場茶屋おりきシリーズはどのようにして生まれましたか?

 立場茶屋おりきシリーズは、2006年11月に『さくら舞う』で刊行されました。
「江戸を舞台にした庶民の話を書いてほしい」という出版社からの依頼がきっかけでした。

 それで、品川宿を舞台にしようと考えている時、私が東京に住んでいたころによく通っていた居酒屋を思い出したんです。
中野の「立場茶屋 広重」という小さな店でした。

私はその当時“立場茶屋”の意味がわからなくて、おかみさんに「立場茶屋ってどういう意味ですか?」と尋ねました。
すると「昔、品川は東海道の最初の宿場町で、道行く旅人が立ったままお茶を飲むような茶屋があった」と教えてくれました。

それが記憶に残っていて、「そうだ! あの立場茶屋があった!」と思いました。
そこのおかみさんは、着物姿にたすきをかけて、真冬でも素足に下駄をはき、いろりでお燗をしてくれる――そんな人でした。

あのおかみさんがもしも江戸時代に生きていたらこんな感じだろうなぁ、と。
こうして気風が良く、涙もろく、人情深い“おりき”が誕生しました。

 この『願の糸』で9冊目になります。
「これだけ書くのによくストーリーに詰まりませんね」と言われますが、今や私が作り出した登場人物たちが勝手に動いてくれるんですよ。
書きながら私自身が「へぇ〜、こんなふうになるんだぁ」って。
私が最初の読者みたいなものです。


●料理の場面が多いのはなぜですか?

 もともと料理を作ることが趣味なんです。
自分が食べるよりも人に食べさせることが好きで・・・。

出版社の人たちは私の家を“居酒屋いまい”なんて呼んでいます(笑)
 立場茶屋おりきシリーズもそうですが、私の小説には必ず料理が出てきます。

あるとき角川春樹社長に「もっと料理を前面に押し出したら?」と言われ、さらに料理の場面を増やしました。
 江戸時代の料理についてもちろん勉強しましたし、私の想像をミックスさせて作り出す料理もあります。

次の新刊『雪割草』(2012年3月刊行予定)で書いた「牡蠣のもろみ漬け焼き」は実際に自分で作ってみました。
牡蠣を料理酒でぷくっとなる程度に煮て、みりんで練った味噌に一晩漬け込みます。

それを軽く焼いて食べたら、すごくおいしかったですよ!
 料理の器や花については、母が福山で画廊をしていたことがすごく役に立っています。

母は誰に対しても気配りのある人で、みんなから慕われていました。
おりきのモデルは「立場茶屋 広重」のおかみさんでもありますが、もっと言えば私の母です。


●時代小説にこだわるのはなぜですか?

 実は、時代小説を書き始める前まで純文学を書いていました。
30代半ばに作家を志してからいくつもの小説を書きましたが、書いても書いてもダメでした。

流行の移り変わりについて行けず、私が書くものは「古い」と言われました。
 転機は藤沢周平の時代小説との出合いです。

もう、はまってはまって! 書かれている時代背景こそ江戸ですが、内容は私が書きたいと思っていたことそのものでした。
人間が描かれていたのです。

純文学で古いと言われるのなら、いっそのこと時代を江戸に移せば自分の書きたいことが書けるんじゃないかと思いました。
 そして2003年、あれだけ泣かず飛ばずだった私が、時代小説に転向して最初に書いた作品「小日向源伍の終わらない夏」で
「九州さが大衆文学賞大賞」をいただきました。

時代小説のほうが、むしろのびのびと書けるんです。
 現代も江戸時代も、人間の感情は大きく変わらないと思います。

逆に、現代のありさまに腹の立つことがあります。江戸時代の犯罪には貧しいがゆえの理由があったと思います。
それが今は、理由もなく一時的な感情で人を殺めるような犯罪がおこりますよね。

暮らしは豊かになりましたが、どこか殺伐としているように感じます。
きっと江戸時代の日本はそうじゃなかったと思うのです。

時代小説ファンが増えてきているのも、そんな思いが皆さんの心の中にあるのではないでしょうか。
 しかし、昨年の東日本大震災で日本人の良さを改めて感じました。

秩序を守り、支えあう姿は世界に賞賛されました。
震災があったのは、ちょうど『願の糸』を書いている時でした。
作品の中でも、大きな地震で家族を失った子どもたちが生きる姿を描いています。


●小説を書く上で大切にしていることは何ですか?

 「人は情けのうつわもの」という江戸時代の言葉があります。
この言葉が私の全作品の主流となっています。

「人は情けをもって人に接していれば、必ずや巡り巡って自分に戻ってくる」という意味です。
人は一人で生きているのではなく、みんなが支えあって生きていることを、小説で伝えていきたいです。

読者の多くは40代以降の方ですが、できれば10代や20代の方にも読んでもらいたいですね。
読めばきっとおもしろいと思ってもらえるはずですし、日本語がいかに表現豊かな言語か、感じてもらえると思います。


3月


: 新刊案内
 
ここ数日、ようやく春めいてきて、固く閉じていた梅のつぼみもようやく綻び、春の到来を今か今かと待っています。
あと数日で震災から一年が経ちますが、未だに復興は遅々としていて、
被災地の方々は本当に大変な冬を過ごされたことと思います。

せめて、春の訪れと共に皆さまの心に少しでも明るい希望が見出せますよう願ってやみません。
ここ一年、苦しいときでも人々が支え合っていく江戸市井の人々の姿を、
現代人への応援歌のつもりで書き続けてきましたが、
3月15日、ハルキ文庫より「立場茶屋おりき」の第十弾「雪割草」が刊行されます。
人は情けの器物……。

今回も、おりきさんを中心に品川宿門前町の人々がさまざまに困難に立ち向かい、支え合って生きていく姿が描かれています。
わたくしは現在、時代小説を書いていて良かったなあ……、とつくづく思います。
改めて、日本人の芯の強さ、心根の優しさを知ったように思うからです。

その想いを、読者の方々にも少しでも汲み取っていただけたらと思い、今回は「雪割草」を送り出します。
そして、4月6 日(金)には徳間文庫より「夢草紙人情おかんヶ茶屋」が刊行されます。

これは「夢草紙人情ひぐらし店」の続編ですが、ほんの少しリニューアルしました。
登場人物はひくらし店の連中がそっくり出てきますが、「おかんヶ茶屋」のお蝠さんが中心となり物語を展開していきます。

立場茶屋おりきが高級な料理旅籠であれば、おかんヶ茶屋は葭簀を巡らせただけの居酒屋……。
庶民の味、お袋の味が愉しめます。

おりきさん同様、お蝠さんも贔屓にして下されば嬉しく思います。

春よ来い!!    はァやく来い!!
 
       3月15日「雪割草」  ハルキ文庫
       4月6日「夢草紙人情おかんヶ茶屋」   徳間文庫

宜しくお願い致します。

6月

Subject: 新刊案内

どうやら梅雨に入ったようですね。
昨日、福山も久々に雨となりました。
私の好きな紫陽花のシーズン到来です。

早速ですが、新刊の案内をさせて頂きます。
6月15日、ハルキ文庫より「立場茶屋おりき」シリーズの第十一弾「虎が雨」が刊行されます。

今回も、おりきさんを巡る人々が感動的な物語を展開します。
子供たちも少しずつ成長していますし、去りゆく人、新しき出逢いなど、
人との繋がりがどんなに大切なものか……。

そんな物語を書いてみました。

そして、7月6日(金)には、徳間文庫より「夢草紙人情おかんヶ茶屋」の
第二弾「縁の糸」(えにしと読みます)が刊行されます。

こちらもおかんヶ茶屋のお蝠さん、ひぐし店の住人が人情物語を展開します。
ますます面白くなり、見逃せませんので、どうか「立場茶屋おりき」「おかんヶ茶屋」
ともども贔屓にしてやって下さいませ。

どちらも美味しい食べ物が沢山出て来ますのでご期待下さいませ!!
今年は本当に忙しく、これからはほぼ毎月のように刊行されますが、
この度は、「虎が雨」「縁の糸」の二冊を紹介させて頂きます。

皆さまもどうかお元気で!!


8月

Subject: 美作の風
 
暑中お見舞い申し上げます。
連日の暑さに加え、オリンピックの応援の熱さ……。
睡眠不足でふらふらになりながらも内村航平の金メダルには感激して、涙がぼろぼろと出てしまいました。

一番高い位置に日の丸が揚がるのを見て、再び、感激!!  
ああ、わたしは日本人なのだなァとつくづく感じてしまいました。

さて、オリンピックも終わった8月15日、ハルキ文庫より「美作の風」が刊行されます。
これは2008年角川春樹事務所から単行本として刊行されたもので、
既にお読みになった方も多いかと思いますが、
この度は文芸評論家の細谷正充さんが解説を書いて下さいました。

この解説を読むだけでも一読に値する、そんな解説を書いて下さいました。
なにとぞ文庫でもお読み下さることを切にお願い致します。

因みに、美作はなでしこジャパンのキャンプ地です。
現在は平和なこの場所で悲惨な山中一揆があったとは……。
先人たちの努力と涙があったからこそ、現在の平穏があるのかと思うと、また違った感慨が湧いてきます。

そして、9月15日にはやはりハルキ文庫より「立場茶屋おりき」の第十二弾「こぼれ萩」が刊行されます。
これもまた、感動的な物語になっていますので、ご期待下さいませ。

まだ暫く暑さが続きますが、どうか皆さまご自愛下さいませ。

こんなときだからこそ、涼しい場所で「美作の風」を読んで下されば有難く思います。
 
 
今井 絵美子

10月

Subject: 夢の夢こそ
 
日中はまだ暑い日が続きますが、朝夕そっと?を撫でて通る風に秋を感じます。
さて、お待たせしました。
10月11日、待ちに待った単行本「夢の夢こそ」が徳間書店より刊行されます。

前にもお話ししたと思いますが、これは文化文政時代の尾道が舞台です。
当時、文楽の創始者ともいわれる植村文楽軒が尾道の浄土寺にて(記念碑は海龍寺にあります)、
浜だんな(豪商)たちに謡や三味線を教え、人形浄瑠璃をみせていたという史実に基づき、と同時に、
八坂神社のかんざし灯籠の伝説を組み込み、近松門左衛門の曽根崎心中ばりの中年男女の悲恋物語を書きました。
無論フィクションの物語ですが、当時の尾道はこんな情景であったのではないかと想いを巡らせながら
感動的な物語に致しました。

是非、お読み下さいませ!!  手応えのある作品に上がったと思っています。
尚、9日(火)22時より23時BS11の宮崎美子の「すずらん書店堂」新刊取り寄せナビにて「夢の夢こそ」が
紹介されますので、併せてご覧下されば幸いです。

本当に力を込めて書きました。この作品で作家としてもう一歩ステップアップできることを願ってやみません。
どうか宜しくお願い致します。



12月

Subject: 新刊案内
 
一年が経つのは速いものですね。気づくとはや師走。ことに執筆に追われる毎日のわたくしには速く感じました。
皆さま風邪など引かれていないでしょうか。
さて、新刊のご案内なのですが、今月15日「立場茶屋おりき」の第十三弾「泣きのお銀」がハルキ文庫より刊行され、
併せて「便り屋お葉日月抄」の第四弾「雪の声」が祥伝社文庫より刊行されます。

そして、正月明けの7日頃「夢草紙人情おかんヶ茶屋」の第三弾「今夜だけ」が徳間文庫より刊行されます。
年末年始、お節に食べ飽き、テレビに飽きたらどうぞ江戸の雰囲気にとっぷりと浸って下さいませ。
今年は単行本「夢の夢こそ」を含め、八冊も刊行しました。
少し飛ばしすぎの感もありますが、新作を待って下さる読者を思うと、ますます頑張らなければと思ってしまいます。
来年もこの調子で感動的な物語を書き続けるつもりでおりますので、引き続きご声援下さいませ。
いつも読んで下る読者の方には感謝しています。
どうかよいお年をお迎え下さいませ!!