ドロミーティ・ラガツォイ小屋思索行


突出する、ということ。
他よりも抜きん出て、自分を確固とした塊として大地に根を下ろす、ということ。
他の者の陰にならないために、立ち上がる、ということ。
惑星はゆっくり廻りながら、光と陰の境にある山の頂きに最後の輝きを与えていた。
それは、世界が無数の青いバリエーションに沈む、ほんの一瞬前に現れた、見ていて悲しくなるほどの光景。
岩達は、その頂きを訪れた者達だけに、更に奥の世界を見せてくれた。
わざわざ、そこまで行った者に対してのご褒美としては、凄すぎる風景に言葉が無くなった。
無言の山と、無言の僕で、しばらくじっと向かい合う。
聞こえるのは風の音だけ。
垂直であることを誇りとして何百万年頑張って来た。
落日前に一瞬だけ浴びるスポットライトに見せる、最高の姿。
まもなく深い闇が訪れる。
折り重なり、積み重なる山々の色を言葉に置き換えようとしてはいけない。
その無数の色、様々な陰を描き取ろうとしてはいけない。
この大きさ、空間の広がりを撮ろうとしてはいけない。
どっちにせよ、何をしても捉えきれないのだから、そのテラスで放心していなさい。