シチリア−05エンナとスペルリンガ、おまけにタオルミーナ


 海岸の聖地「神殿の谷」を離れ、途中で小さな、何の変哲も無い村の料理店で予想通りのマズいパスタや、
意外にウマい羊肉などを楽しんでから、「シチリアのヘソ」と呼ばれるエンナに向かう。
「パノラマ付きの素敵なお部屋を用意しておきます」というホテル・イタリア(名前が凄い!)の主人の言葉はともかく、
海抜1000m近い高台の街は、やはり僕の心に呼びかけていた。

 午後になってから急に崩れ出した空の下、広大な平野を横切りながら、やがて徐々に高度を上げて行くと、
時折差し込む太陽が、それは鮮やかな虹を作り出す。
谷の限られた空間にかかるその色鮮やかな光の帯は、自分と山の間にかかっているでないか。
虹と言うものは、山肌の遠く向こうにあり、つまりそれが手の届かぬ「夢の象徴」として考えていた自分の定義を改めさせられる喜び。
 25年前、カトマンズで二重に輝く虹を見たことを話しながら、あの頃はもっと色々なモノや、
予想できない事が自分の前に横たわっているという「恐れに似た希望」に満たされていた事に気づく。

 ほどなくクルマは急激に高度を上げ、それはちょうど離陸する飛行機の様な角度でエンナに向かっていく。
ホテル・イタリアには簡単に到着し、さっそく「パノラマ付きの素敵なお部屋」に荷を解く。
そのパノラマを満喫するためには、「保守緩慢」か、むしろ「違法建築」という熟語が似合うテラスに出なくてはならず、
怖くてそこに出られない。
隣の部屋のテラスを見ると、案の定、テラスの土台部のコンクリートが下に落ちたまま(もしくは落ちたばかり!)になっている。

 結局、パノラマは部屋の窓から堪能させてもらったが、その窓から見えるエンナの街は、
見る気も撮る気も起きない雑然とした貧しい造りだった。
夕食は「この辺りで唯一のお薦めの店」ということであったが、大味な料理に笑うしか無いひととき。
・・・失望するのも旅の楽しみ。
ドライブに疲れて、心地よく眠りに墜ちて行く。


快晴の翌朝、展望台から。
肥沃なる大地。
エンナから北に1時間ほどSPERLINGAに、岩盤の街と城があるので、
その辺りの地元料理でガッカリしようか、と出かける。
岩盤に癒着した街。トスカーナの南に良く似ている。
この白の効かせ方が凄い。それに青。
ニンゲンの手が造った壁。
かつてはテラスがあり、そこに出て外を眺めた人が居た。
この微妙にして絶妙な色の組合わせ。
考えてやったとしたら凄い。でも絶対にそうでは無い。
無名の人の「やっつけ仕事」なのだ。
やはり油絵で起こしたい・・・また絵筆を持ってもいいな、という誘惑にかられる。
岩盤を限りなく削って行った大きな作品としての城
てっぺんに登る石段。全部削り出している。
こういうものが映画のセットではなく、本当にあるんだ、という驚き。
魚の背びれのように飛び出した岩に築いた城の頂上から下を見る。
戦略的位置に造られた事が判る。
登って来た屋根を振り返ると、かつての戦場が静かに広がっていた。
つつましく、貧しく、美しい家。
飛び込んだ地元の店で、結婚行進曲が突然鳴り響き、金婚式のパーティが始まった。
ジョバンニとロジーナ夫妻の、その岩盤的、戦略的、癒着的50年のユネスコ世界遺産的歴史の成果である
親族達のテーブルに出される料理のおこぼれを、
こっちのテーブルにも店主が次々に持って来るのでかなり満腹。
それでもハウスワインでない白ワインを飲み、タオルミーナに向けて出発。
タオルミーナの夜景。ハネムーンかフルムーンにいかが。
タオルミーナの劇場跡。絶景は絶景だが、写真としては難しい。
それでも一応撮っておく。