イタリア便り3月号  石の国、イタリア


人間の暮らしを包み込む箱として、数千年に及ぶ歴史を持つイタリアの家。
雨と風から、家族の営みの象徴であるオリーブオイルのともしび、ロウソクの小さな炎、
そして電球の灯りといった様々な光りを守って来た。

その歴史の壁、壁の歴史を自分の目で見るひとときは、何にも代え難い「小さな喜び」を与えてくれる。

そんな壁だけを今月はお届けします。


1=マチェラータの南にて。
無人屋の壁。
人の気配がしない一角にはこのような「開かずの箱」がたくさんある。
そこに閉じ込められた時間を考えると、自分を愛し、育て、そしてすでに言葉を交わす事が出来なくなった人達を想う。
2=シチリア、カターニャ連作。
朝早く宿を出ると潮の香りがした。その香りを辿って朝市まで行く。
かつてはまだ海がこの家の下まで来ていた。
そのテラスから夫や恋人、息子達の船を見た女達のまなざしを感じる。
窓はハメ込まれたまま壁に姿を変えた。
海で遭難した身内への慟哭に蓋をするように?
3=うれしいはずの小旗が、かえって侘しさを感じさせる。
ここも閉め切っている。
4=錆の浮き出たテラスの柵に、脱水の弱い洗濯物を干すのは、なぜか?
5=壊され、塗りたくられ、削られ、崩れ落ちた・・・シチリア島の略奪の歴史の再現か。
6=自分が関わっていたスクーターがボロながら愛されて生きているのを発見。
いとおしくなる。
7=この無愛想な造りに変に感心してしまう。
でも、心がガサついている家族ではないのか?と心配にもなるが。
8=家はボロでも、陽当たりが何よりのステータス。
貧しいけれど、パスタはおいしい家だろうな、ぜひ招かれたい。
9=足の悪いおばあさんが、寝込んでいる家。
10=シチリア、ティンダリ近郊連作。
北向きに海を望む高台の村。
ギリシャ時代の遺跡を見に、ゆっくりと路地をのぼって行く。
静かな一本道のわきに素敵な風景がいくつも現れて来る。
それは、わざわざこんなところまで訪れた僕らにだけ与えられる、小さな輝く贈り物。
11=完璧に風化した、家族の歴史。
壁も凄いが、扉も凄い。油絵で現場で描きたくなる。
一緒に来る?
12=この空間、色と柵のリズム。
なかなかの腕と見た。
子供のはしゃ ぐ声が聞こえてくるような。
13=なぜか、心惹かれた一角。
何故なのかはまだ判っていないけれど。
14=遺跡の遊歩道の壁。
誰が、何のためにこうして赤い破片を埋め込んだのか・・・。
執念の壁。
15=隙間を全部埋めて行くのは結構大変。
「今日は止めた!」と途中で投げ出しているような部分もあって笑えます。
16=トスカーナ、ヴォルテッラ近郊連作。
廃鉱の村だ。
壊れた壁でも、やはり豊かな地域だと感じるのは、トスカーナだからか。
17=思わず唸ってしまった。抽象画の様な壁に鮮やかな2つのポスト。
これで赤が右だと面白くないものね、さすがイタリアだな・・・と感心。
深読みしすぎだって?僕もそう思います。
18=凄い。全てがある。
会席料理のような、前菜盛り合わせのような、壁を味わう初心者向けに最適な一面。
これは水彩かな、一緒に来る?
19=こちらは玄人向けの一面。
ガラスの青、木のドアの白い漆喰、トイレの赤いレンガ、と適材適所。
20=この村は壁の宝庫。
一週間は泊まらないと。
スケッチの腕はかなり上達する。
お酒の腕も上がるけれど。