「ミラノで厨房経験をしないか?」というお誘いがあり、迷わず飛び込む。
みどり多い丘陵地帯で20年も「半隠遁生活」をしてきた自分がどこまで適応できるのか不安だが、
とりあえずは、しばらく大都会暮らし。

清新の思いで上京した青春時代に戻って、都会生活を始めるしか無いだろう。
着いて、さっそくドゥオモ散歩。
「オレ、ヨーロッパに居るなー!」と再認識。
仕事は超キツく、連日15時間勤務が続く。
仕事か、寝るか、だけの生活。
クタクタで、夜中に最終地下鉄で駅に着くと、こういう風景が待っている。
強くないと、都会では気持ちが荒んで行くぜ。

「都会は石の墓場です、人の住むところではありません」とはロダンの言葉。
でも「住まざるを得ない」事こそが問題なのですよ、アナタ。
つまらない風景が 多すぎるからね。
しばらく「都会の風景を撮る」のをテーマとする。
(それしか無いので、とりあえず) これは自転車の吹きだまり。
引き取り手が現れないので、縛られたまま朽ちて行 く。
地下鉄に乗ろうとする自転車。
無理してでも改札口を通過だ。
地下鉄駅に張られたメッセージ版。
家からクルマから、ペットから、古着まで。
何でも売ります。
「私の人生、売ります」「そんなセコハンの夢なんか、いらねえよ」
週一回は道掃除なのでクルマを歩道にあげておく。
この狭いところに載せるのは 結構難しい。
つかの間の日差しにオトコは、その小さなテラスで身体を焼くのであった。
そう、頭の中は既にバカンス、その砂浜で、やはり白い身体は見せたくない。
デバラでも良い、でもマッシローイのはいかんのですよ。
駅にある、美容室の広告。
モデルの額には即「娼婦に一発を!」とか書かれてしまう。
が、この写真を撮ったのは、美容室の値段が松、竹、梅と3通りあるのが面白かったから。
例えば洗髪とヘアセットは梅が8.5 竹が14 松が22ユーロだ。
どういう違いがあるのか、興味がわく。
行ってみようかしら。
落書きを「深読み」する。
これは、パターンがマンネリな初心者の作品。
花びらの数なんかは、一定にした方がキレイだろ。
もっと修行しなさい。
手間がかかっていて、悪くはないんだけれど、「で?」と言う感じ。
ペンキ代が 大変だったろうな、とは思うけれど、インパクトが無い。
それと、他の文字に比 べて「S」の変形が弱い。
もっと、行け!
毎朝、見るたびに嫌な気分にさせられる作品。
かなりスネている性格だろう、作者は。
恋しなさいよ、と言ってやりたい。
デフォルメのセンスは良いのだから、世の中をハスに見ないで切り込んで行くこ と。
上のと同じ作者だろう、手法が似ているし、何よりも「不快感」が共通している 。
使われる色が白と黒だけなのはなぜか?
カスレをうまく使っているのだから、腕はある。
入れ墨師に向いているよ。
結構、うまく兵士の特徴を捉えた作品。
顔の白い丸はサングラスなのだ、と後で気づいた。
この人は、なかなか。
シルエットのセンスがあるので、切り絵師とか。
ナビリオ運河近くの大作。
上のと比べて、色の使い方に幅があるので、見ていて飽きない。
青系統と黄色系統の対比をもとに賑やかさを出している。
これも落書きだが、他の下らない落書きに汚されないような、大きな壁を用意するから描いてもらいたい。
路上の子供の作品(?)。
青チョークの動きを見ると、腕全体で描いていると判 る。
その後に黄色、赤を載せて行った。
雨が降ると消えて行ってしまう、即興作品。
都会暮らしに慣れた頃、デートの相手がボローニャから来るのでミラノ駅まで迎 えに。
デートの相手は息子。
2週間ぶりに会うことになった。
ホームで待つ、さ−あ、 何を食おうか?
「えーい、二人で寿司の食い放題だ!」と中国人の店へ。
のど元までしっかり食べてからエゴンシーレの美術展を見に。
かつて学生時代に自分が見た作品を、その時代に居る息子と見ると言うのは、不 思議な感覚。
ミラノでの「新旧学生どうしデート」は数時間で終わり、息子は泊まらずに彼女の居る街へ帰って行った。
この辺も、あの時代の自分の再現で、お笑いものだ。
そんなに彼女が大事かよ? ハハハ、判るよ。
夕食は寿司アーティストの市川さんが日本から戻ってきたので運河沿いでちょっ と一杯。
ほろ酔いになったらやはり、ラーメンと餃子だろう、正常な日本男子なら。
「日本人の、日本人による、日本人のための味、大阪」へメトロで向かう。
今日 はミソだ。
「ミラノの大阪で和食」なら「大阪のミラノでイタリアン」というのをやらないといけませんな。
日本から洋菓子作家が滞在していて、特別ケーキを味わう。
餃子の後にこういうケーキと言う組み合わせもわれわれにピッタリ。
店で意外な人にも会えて、満足した夜であった。
日曜日に運河沿いの「植木市」を見に。
盆栽も売っているのでビックリ。
石にオリーブの盆栽と言うのが新鮮。
でもお値段が一桁、少ない?
手作りの教会付き盆栽だが、こっちの方が手間がかかっている?
ある日、街の中心部で、昼間の白ワインが効いて強烈な眠気に襲われる。
さっそくドゥオモに入り、小さなミサの席が空いているのを発見。
昨年亡くなった母を偲んで30分ほど、イビキをかかないように気を付けながら「瞑想」させてもらう。
オフクロ、ありがとうね。
息子は相変わらず、アホやってますよ。
隣町のパヴィアまで出かけて、居酒屋視察。
何と言うか、店に入ったとたん、ほっとする空間というのが何ともいえないね。
ワインをどんぶりで飲むというのも、昔、日本酒をどんぶりで飲んでいたわれわれの習慣に合っている。
今週からは違う店で、今度は市川さんと一緒に厨房に入る。
9時過ぎ、お客が入ってきて満席になると、厨房は戦場と化す。
怒号の中、フライパンが飛び交い、ソースがほとばしる。
オーダーを見ながら作戦を練る市川さんと、臨戦態勢の兵士達。
この店はフィリピン人、エクアドル人、アルゼンチン人の文化圏であった。
厨房の一角に並ぶ、兵器群。
家庭用と比べると一回り大きい
そこでボクが出していた焼飯のお飾り。
たかが、白米の炒めたもので1000円以上頂くわけだから、お皿が食卓に下ろされ た瞬間に「オッ!」と思わせないと申し訳ない。
ちょっと、盛りつけに高級感が 無いので、改良の余地あり。
和風ドレッシングのサラダはイタリア人にも好評だった。
醤油は偉大な文化なの だ。
市川さんの出前寿司をお手伝いする。
一流の寿司職人を自宅に呼ぶと言うレベルの、お客さんの家を見るのも勉強にな る。
この日は10人のパーティー。
キッチンの隣には屋内プールがあるという、なんだか高級ホテルのような家。
一方、この日は20人のパーティで、デザイナーの家。
インテリアはシンプル、モダン、レトロの3要素。
なかなかアジア人には作り出せない雰囲気。
それにしては普段に料理をしないのか、キッチンが40年くらい遡っているが、少 ない食器で苦労すると言うのも、楽しみの一つ。
タコを並べ始めたこの食器、実は数十年前にデザイナーのお父さんが入手したと言う投光器の反射鏡。
何と、カール・ツァイス・イエーナのマークが付いていて、光学マニアの僕をうならせた。
灯台か、戦争用の投光器か、そういう目的で生まれた東ドイツの反射鏡も、
まさ か数十年後にミラノで、ノルウェーのサーモンを載せることになるとは想像しな かったろう。
日本からグランシェフの河上さんが来て、ミラノ散策。
ドゥオモ屋上に上がる。
修復が終わったところは本当にキレイ。
スペインのアルハンブラ宮殿を思い出した。
「石で造ったレース編み」だ。
「基本イメージは森」石の文化、職人芸の結集を見るのには絶好の作品。
大きな 彫刻作品の中を歩けるわけだから、かなり面白い。
ぜひ昇ってください。
そして石文化の頂点、ミケランジェロを見るべく、スフォルツェスコ城に回る。
ロンダニーニのピエタ。
盲目に近い状態で死ぬ前まで彫っていた90才の人生を考える。
4つのピエタは、しかし、25才のバティカン大聖堂のもの以外はすべて75才以降 に彫られたのだ。
彫ると言っても、石を彫るのは並大抵ではない。
しかも、このピエタなどは、彫 り直している。
創造のための破壊の神、シヴァと言うのがインドに居たが、
ほとんど出来上がっていた作品を壊して彫り直すということが出来るかね、その年で。
この日は客が少なく、防護柵も無かったので、まさに手で触れられる近さで見る 。
世界的作品をマクロで撮れるのだから、贅沢の極地。
イタリア料理界の重鎮、マルケージの回顧展をやっている。
これはイタリアデザインの父、ブルーノ・ムナリが作ったフォーク、さすが。
写真では知っていたが、本物を見たのは始めて。
そんな美術館の片隅で昼食のパンをかじる守衛さんの人生はいかに?
何を考えている?
1=「つまんなくて、やってられっかよ!」
2=週末の海行き?「あいつはどんな水着かな?」
3=もしかして結婚してたら家族の事。「もう一人、欲しいけど、難しいなこの ままじゃ」
運河沿いの店に夕食。
チーズ30種類、食べ比べ天国。
食べなかったけれど、匂いだけかがせてもらった 。
「人間的匂い」のものあり。官能的食材ですな。
今日は一人で「ダヴィンチ日和り」。
500年前の「アトランティック手稿」が公開され始めたので2ヶ所を回る。
ガラス越しとは言え、ほんの20cmで見られるのは幸せな時間。
今月からシリーズで20回に渡って「アトランティック手稿」をテーマ別に公開していく。
それにしても、見学者が少なくて、ほとんど一人で貸切り状態。
じっくりとガラスに近寄って見るので、守衛のオジさんとかオネエちゃんが監視 していた。
アンブロジアーナでは、「ついでに」2年ぶりにラファエロのカルトーネだけ見る。
7mの大作。
今日はイタリア語のガイドさんが20分以上、説明しているのを脇でタダで聴いていた。
居眠りしているお客さんも居た。
「失礼ですがイタリア語はお判り?」と訊かれるかな?と思っていたが。
以下はミラノ点景。
変なバッグ。
「愛人王朝」ですよ。
何が言いたいのか。
子供に説明できないぜ。
これを持っている人を見てみたい。
いや、見たくない。
ファッションの中心地、モンテナポレオーネ通りのお飾り。
一瞬、前橋の七夕祭りを思い出した。
通りのレベルは少し違うけれど。
ある家のテラス。
「そこに2人分、ベッドがあるじゃない」と言いたくなる広さ 。
夏は外で寝られる。
てっきり強烈な下痢に襲われてしゃがみ込んでいるのかと思ったが、実は書類を 見ながら路上電話。
イタリア語ではなかった。
おいおい婦警さん、おしゃべりしてないで仕事しろよ・・・と言いたくなるのは 、自分の中の日本人パーツ。
警官と言うのは存在自体が仕事なのだから、おしゃべりもOK.
こういうユニークな芸人が街を元気にする。
この人はこの格好でじっとしています。
存在自体が仕事、その2。
そこの帽子におカネをあげてね。
すると、ポーズを変えます。
おカネをあげないと動けないからカワイそう。
ネクタイも、背広も、髪の毛も、「飛び回るビジネスマン」を表現するために考えられています。
アイデアが凄いが、ずっと笑っていると言うのも辛いよね。
同じ人の前の日のもの。
針金で曲げてあるネクタイが紫ですよ。
毎日ネクタイを替えるのが、おしゃれな国、イタリアですな。
さすがです。
ミラノにも美しい壁はある、ある。
大事なものは廻りにたくさんある、でも見えてない、見ようとしてないだけ。